和風の坪庭
京都の町家の裏には必ずといってよいほど小さな「坪庭」があり、椿や栃の灌木を植えて十草が生え手水鉢がある自然の空間です。昔ながらの京都の町家は、間口が狭く奥行きが長いうえに密集して建てられていたので、風通しや日当たりが悪いという問題を解決するために設けられた工夫の一つが坪庭です。
町家で坪庭というと玄関隣に設けられた小さな庭のことですが、座敷の前にも庭が造られ風の抜け道になっていました。また実用性と観賞の楽しみを兼ね備えた坪庭は生活を快適にする重要な役割を果たしているのです。
坪庭の空間
縁側は屋内と屋外を繋げる効果があるのに対し、坪庭はそれ自体が建物にあるのが特徴です。こんな条件から庭には、陽当たりに影響されにくい常緑樹と玉砂利や砂が使われてきました。特に昔からある植物を使い、花ではなく葉の美しさで魅せる庭は無理なく現代の暮らしにフィットするだけでなく人と自然の継続可能な関係を作り上げ、空間を繋ぐ眺めの良い坪庭には「和の精神」が生きています。
坪庭の歴史
原始時代の史跡に石を円状に並べて庭を思わせるものがあります。やがて大陸から入った思想をもとに当時の人間の理想郷を庭に見たてました。
その後、江戸時代になって茶の場が定着すると、その自然志向が庭に影響するようになり、一般の町家にも庭が造られるようになりました。京都の坪庭もこの頃に生まれたものです。
日本の過程における庭のあり方は、山があり池があり水が流れ樹木が繁る自然の風景を、そのまま凝縮して一か所にまとめた形こそが本来の庭づくりの基本的な考え方です。そして坪庭は、建築に取り込まれた自然の空間の一面を取り上げたものと言えるでしょう。
坪庭のある家
個人で建てられる住宅の多くは狭小の敷地など厳しい条件であるため、坪庭のある家が少ないのが普通です。そこで参考にしたいのが現代の住宅の間取りに活かせる要素が詰まっている自然を取り入れた町家の知恵です。
例えば浴室などのガラス越しに坪庭を設ければ開放感やくつろぎ感が得られます。また背の低い照明などで部分的に照らすことで、より感動的な空間が広がります。このように最近では家の中心に中庭を設けて、どの部屋からも眺められる坪庭のある家が注目されているのでリフォームの際に考えてみてはいかがでしょうか。
坪庭でできるガーデニング
日本にはガーデニングブームの前から、盆栽という趣味のような芸術の技術が伝えられています。盆栽というと古臭い男性の趣味という印象がありますが、最近では坪庭を利用した手軽なミニ盆栽が女性に人気があるようです。
小さな空間をガーデニングするというのは、日本的な花や木を育てることを楽しむことです。ミニ盆栽は毎日の手入れは不要で、来客のときだけ床の間風に飾るなど便利な使い方もできます。またベランダ棚を作っていくつか並べれば、そこが坪庭であり、場所を選ばないガーデニングも行えますよね。
室内で坪庭を作る
家に庭もベランダもないという人には、簡単に室内で坪庭を作る方法を紹介します。例えば河原で拾ってきた流木や枯れ枝を生け花のように飾り、大きめのお盆や折敷を床に据え、その上に枝を置き蔓や小石をあしらいます。日本の造園術には借景とか見立てという技法がありますが、室内の一画を坪庭に見立て盆栽や枯れ枝を主役にした庭づくりをしてみてはいかがでしょうか。