和紙の素材
和紙は調湿性や通気性があるうえ熱伝導率が小さく光を通すので明かり障子として利用されるようになりました。これは戸を閉めた状態での採光を可能にすることで日本家屋に画期的な変化をもたらしたのが「和紙」なのです。
さらに日本家屋における和紙で忘れてはならないのは、和紙が日本人の色彩感覚を表現する自然素材であることです。四季を通じて豊かな色彩を育んできた日本人は多色の和紙を使って絵や文字で家の中に色を取り入れています。ここでは和の自然素材の一つである「和紙」について見てみましょう。
和紙を使ったもの
和紙を使ったものには襖や障子以外にも行燈・提灯などの照明器具や表面に脂を塗布して防水性を持たせた和紙を使用した傘などの日用品にも広く使われています。またレーヨンやケナフなどの自然素材で織った壁紙・和紙に漆を塗った壁紙は強度が増して西陣織のような美しい壁に仕上がります。
古くから和室で使用されている天然素材の和紙を使った壁紙にはビニールクロスと違って人や環境に優しく温もりのある質感が持ち味です。自然素材を織りあげた体に優しい織物壁紙はホコリが付きにくく、ほつれなども少ないうえ發水性や吸放出性も発揮する以外に原料の成長が早いので森林資源保護にも役立っています。
和紙の文化
紙は7世紀に中国からその製法が伝わったと言われており、日本で原料として使われるコウゾ・ミツマタ・ガンピなどはいずれも繊維が長く丈夫で、滑らかさと光沢がでるのが特徴です。
その和紙の文化の象徴ともいえる宮廷建築にみられる豪華絢爛なフスマ・衝立て・屏風などはその集大成と言えるでしょう。
昔は和紙を張り重ねた下地の上に仕上げ紙を張り、画家が絵筆によって唐絵や大和絵・水墨画を書いた本襖が使われていました。また紙を張った障子は平安時代末期から貴族の住宅で用いられています。紙を張るのは採光が目的で、紙を通して射す柔らかい光が和室に適度の陰影を作り深い演出をすることから「明かり障子」と呼んでいました。
和紙の素材
和紙の中でも襖に使用する「本鳥の子紙」が最高級といわれています。しかし高価なので現在はこれを模倣した機械すきの新鳥の子紙や上等仕上げには絹糸を用いた和紙で裏打ちした絹張りが施されます。ヨーロッパでは手すき紙が綿を利用したのに対し、和紙では成長の早い楮(コウゾ)雁皮(ガンピ)三椏(ミツマタ)などの靭皮繊維という植物の表皮のすぐ内側にある皮が使われました。
月桃は沖縄を含む亜熱帯に群生するショウガ科の植物で、茎から取り出せる繊維を使った月桃壁紙は天然素材ならではのナチュラルな色調と質感・調湿性・通気性に優れている自然素材です。
月桃紙
月桃の繊維を原料に造られた和紙の「月桃紙」は、沖縄に生育する多年草の月桃は防虫忌避や抗菌作用に優れており、独特の芳香を持つことが特徴です。この月桃は非常に生命力が強く葉や茎を収穫しても1年後には元の大きさに成長するため、月桃紙を使うことで森林伐採の低減につながると期待されています。
和紙の持つ独特の風合いと強い耐久性も持ち、特に壁紙についてはホルムアルデヒド含有率が皆無に等しく、また調湿機能を合わせ持つため月桃紙を加工した障子や壁紙は環境にも人にも優しい新建材として注目されています。
現在の和紙
和紙と呼ばれているもので日本で生産されているものは数10%程度で、コウゾやミツマタといった本物の材料が大変高額で入手困難なため、和紙と呼ばれているものでも本物の「紙の素材」を使用した製品は非常に少ないのが現状です。
例えば紙張り障子に用いられる障子紙は、昔は手すき和紙が大半でしたが現在ではパルプやレーヨン・ビニロンなどの化学繊維や合繊の紙が多く用いられています。また襖では唐紙を張った本襖が使われていましたが、現在ではプラスチックや段ボールなどを下地材とした量産型の襖が多く使用されています。