屋根と瓦
日本建築の屋根瓦の多くは社寺が中心ですが、町屋や数寄屋・茶室の瓦は日本独自の洗練された景観を決定づける洗練された美意識の極致ともいえます。しかし現在の日本では一般住宅建築の屋根でも瓦を使用しているものは少なく、日本文化の特徴でもあった連なりを持つ町並みが風情のない無惨な風景になりつつあります。
屋根は住まいの形を決定づける重要な要素です。ここでは日本文化の特徴の一つを住まいに蘇らせるために、伝統的な建築素材の中でも外観で和風住宅を感じさせる屋根の造形と、和の風情を感じさせる瓦について見てみましょう。
屋根の形
屋根の形には切り妻・寄せ棟・入母屋の形式が多く見られます。なかでも入母屋は切り妻と寄せ棟を重ねたような形のもので、複雑な建築技術を要し古くは寺社などに用いられていました。現在の和風建築では日本古来の伝統的な和風建築そのものよりも、屋根の形や堂々とした存在感などに和風の品格を感じているため、入母屋より落ち着いた風情から寄せ棟を好む傾向にあるようです。また切り妻は屋根にかかるコストを削減できることから、主に一般の平屋建て住宅で使用されています。
屋根の工夫
昔から日本の気候は多雨多湿であるため、瓦葺きなど防水処理が難く勾配の強い屋根を使用していました。さらに雨だれを遠ざけると共に夏の強い日差しや庭の照り返しを防ぐ方法として深い軒が出されています。
また屋根瓦は施工する際に桟木の上に葺くため、屋根との間の隙間が熱を逃がす役目を果たすので夏の直射日光で瓦が温められても室内は涼しく、冬はこの空気層のおかげで熱が逃げにくい仕組みになっています。
時代の変化と共に屋根の機能は、平坦でも対応できる防水技術が発達し、屋根材も軽く丈夫なものへと多様化しました。例えばスレート系と呼ばれる石質の薄い板を使った屋根材・軽量で安価なカラートタンなどの鋼板・アルミ合金製の非鉄金属系屋根材などによって、粘土系の和瓦を使用する家屋が少なくなっています。
瓦の歴史
日本の建造物の多くは古くから瓦が屋根の上に存在しています。例えば日本最古の木造建築物として知られる法隆寺の金堂ならびに五重塔の昭和修理の際には再利用が可能な瓦をそのまま使っているのは有名な話です。
瓦で屋根を葺くことは奈良(平城京)の枕詩に「青丹よし」〜青い瓦と丹い柱〜とあるように古くからありました。飛鳥期・崇峻天皇元年(五八八)に、古代朝鮮の百済から仏舎利から献上され、寺院建築に必要な寺工・瓦工・画工などの技術者が渡来して法興寺(現在の奈良市の元興寺)を建てたのが始まりとされています。
その後、時代の変化と共に国分寺をはじめ、社寺建築を中心に権威的な象徴として使われ続けたために一般の民家の屋根に瓦を葺き始めたのは江戸時代も中頃からで特に明治入ってから全国で使われるようになりました。
和の屋根
奈良や京都の家並みや信州の民家の切り妻屋根の造りは、日本の和風住宅の特徴と言えるでしょう。「日本建築の美は屋根にある」と言われるように、そのデザイン的美しさは世界に類を見ないほどです。例えば一般的な和風の屋根に見られる構造では、鬼がわら・下り棟・破風など装飾が揃った見事な入母屋造りの屋根にはどっしりとした風格が感じられます。
「切り妻」は和風住宅の原型とも言える一般的な屋根の形です。代表的な建物には伊勢神宮があり、古来から用いられてきたデザインです。また「方形」と呼ばれる棟のない頑丈な美しい和風の屋根は、寺院の堂塔などに瓦葺きの美しい方形を見ることができます。一方、切り妻と並んで広く一般的に利用されている代表的な屋根に「寄せ棟」があります。唐招提寺の金堂はその最も美しい例の一つです。
屋根瓦の欠点
従来の粘土系の瓦は台風など強風の際に、吹き上げようとする引っ張る力が働いて瓦を飛ばしたりズレによる雨漏りを引き起こす原因になります。また土乗せ工法を行った場合、重さが柱や梁・垂木など下の構造に負荷がかかるため地震などの際、屋根の重みによって家ごと崩れ落ちる可能性も否定できません。
そのため現在の和風屋根瓦では各メーカー独自の形状により、瓦が飛ばされる危険を大幅に軽減するための工夫が施されています。また軽量の素材を使用する以外に揺れに強い耐震一体棟工法などによって地震の揺れや強風に対して屋根や瓦の落下を大幅に抑えることができる施工方法が主流になっています。